●恐怖症の克服とメンタルリハーサル 催眠療法といえば、悩める人を催眠にかけて、解決のための暗示を与えれば、たちまち問題が解決されていく印象があります。 でも、実際の催眠療法では、言語の暗示だけで解決を試みるようなことはほとんどありません。もし、恐怖症の問題を抱えたクライアントに、「今後あなたに恐怖が襲ってきたら、どんなときでも左手の親指を握りこむことで恐怖はすぐに消えてなくなります…」などといった暗示を与えるようなヒプノセラピストがいたら、それは本当の催眠を理解していない人です。 実際に催眠を使って恐怖症を克服する場合、まず、その恐怖症が単独のものなのか、それとも心の病気からきているものなのか、しっかり確認をしたあと、単独の恐怖症と判断した場合に限り、メンタルリハーサルという技法を適応することが少なくありません。 たとえば、エレベーターが怖くて乗れないクライアントがいたとします。 恐怖症を改善するためには、エクスポージャー(暴露療法=恐怖突入)しか方法はなく、それがエレベーター恐怖症ならエレベーターに乗る練習をするしかありません。 しかし、エレベーターに乗ろうとすると、足が震え出し、過呼吸になったり、顔が青ざめて、貧血を起こしそうになったりすることがあります。こうなると、恐怖突入どころではありません。 こんなときに、催眠をうまく使って恐怖突入ができるまでのトレーニングをしていきます。 催眠状態では、誘導者が作り出すイメージの世界に臨場感が出てきます。たとえば、催眠状態になっているクライアントに、「あなたは北極にいます……体がとっても寒くなってきました……」と言えば、クライアントは本当に寒くなってきます。でも、どんなに深い催眠状態であっても、クライアントは自分がカウンセリングルームに居ることをわかっています。 これは映画を観ているときに似ています。 映画館のスクリーンに映し出された赤や青の光を見て、人は笑ったり、悲しんだり、恐怖を感じたりします。これは臨場感が映画のストーリーに移動しているからです。 でも、自分が映画館に居ることを忘れる人はいません。映画の中で殺人事件が起きたからといって警察に電話をする人なんていませんよね… 催眠も、「あなたはいまエレベーターに乗っています……」と暗示をすれば、クライアントはエレベーターに乗っている臨場感があります。でも、自分がカウンセリングルームに居ることをわかっているのです。 この、現実ではないことをわかっているのに、現実と同じように臨場感を体感できる催眠独特の状態が、現実世界ではまだ恐怖突入ができない人のトレーニングとして活用できるのです。 そして、催眠状態でのトレーニングを終えたら、セラピールームから外に出て、最寄りのビルへ行き、実際のエレベーターを使って現実世界でのトレーニングをやっていきます。 そして、セラピストはクライアントをサポートしながら、慎重に、且つ系統的に恐怖突入を行っていきます。 これが催眠での恐怖症を改善させるもっともオーソドックスなメソッドです。 ●単独の恐怖症と心の病気 催眠は、苦手なものを克服させることや、恐怖症の克服にはとても優れています。 ただし、その恐怖症が単独の恐怖なのか、それとも心の病気から来ているものなのか、この見極めはとても重要で、心の病気を患っているクライアントに催眠を適応させてしまうと治りが遅くなってしまうのです。 たとえば、エレベーターに乗っていて、たまたま地震などが起きて死の恐怖を味わったとします。この場合、エレベーターと死の恐怖が結びついてしまい、その後エレベーターが怖くて乗れなくなってしまうことがあります。これがいわゆるエレベーター恐怖症です。 これは、エレベーターに対する単独の恐怖症なので、催眠のメンタルリハーサルで解決する場合が少なくありません。 しかし、クライアントがアゴラフォビア(広場恐怖症)のような心の病気だった場合は催眠を適応させたらダメなんです。 アゴラフォビアやパニック障害の人も、「エレベーターが怖くて乗れない」といったことをよく口にします。 でも、アゴラフォビアやパニック障害の人は、エレベーターだけではなく、逃げ場のない状況に置かれると恐怖を感じたりパニックを起こしたりするのです。 たとえば、新幹線や飛行機のように、降りたくなったときに自分の意思で降りることができない状況や、満員電車や祭りの人混みの中など、身動きがとれない状況にいて、その場から逃げたいときに逃げられないと感じたときにパニック状態になったりします。 前者のエレベーター恐怖症のように、単独の恐怖症は、系統的脱感作を配慮しながら催眠でのメンタルリハーサルを終えたあと、現実でのトレーニングを繰り返すことによってほぼ確実に恐怖症を克服できます。 しかし、後者のような、心の病気の人は、催眠療法や暗示療法を適応することによって治るのがどんどん遅くなっていくのです。 さらに、霊媒師の施術を受けたり、占い師の助言を元に行動していると、極めて治りが遅くなります。下手をして、霊媒師の施術で少しでも効果を実感したりしたら、心の病気が治らなくなってしまうことだってあるのです。 よく、心の病気の人が霊媒師の施術を受けて、「良くなりました」とか「治りました」と言っていたと思うと、数日してから、「また再発してしまったんです」などと言ったりします。でも、これは再発したのではなく、そもそも治っていないのです。 心の病気は、変性意識の考え方を元にした、催眠を使わない方法がもっとも早く治っていきます。 霊媒師の施術や占い師の助言は、健康な人の悩みに対して有効なのであって、心の病気を患っている人が霊媒師や占い師の元を訪れるのがもっとも危険なことなのです。 ●直接暗示と劇的な現象 催眠では、直接的な言語を使って暗示を与える手法を「直接暗示」といい、暗示の意図を表に出さず、示唆的な表現で意図を伝える手法を「間接暗示」といいます。 たとえば、少し攻撃的に話をしてくる相手を大人しくさせようと思ったとき、「そんなに攻撃的に話す必要はありませんよ…」というのが直接的な語り掛けです。これに対し、「先ほどより声がやわらかくなってきましたね、なぜでしょう…?」というのが間接的な言葉を使ったアプローチになります。 多くの人が抱く催眠のイメージとして、「催眠術にさえかかれば、あとは直接的な暗示を与えてもらうだけで、目が覚めたら自分が変わっていて、たちまち問題が解決していく…」そんなふうに思っている人は少なくありません。 実際、極まれにそういった現象が起きることもあります。 たとえば、原因不明の肩の不具合が発症して、すでに10年、腕を胸の高さより上に挙げようとすると肩に痛みを伴うクライアントがいたとします。 このクライアントに催眠誘導を行い、「あなたの肩の不具合はいまこの瞬間をもって改善されました…」と暗示を与えて催眠から覚ますと、クライアントは痛みを感じることなく腕が頭の上まで上がり、軌跡でも起きたのではないかと思われるようなことがあります。 こういった現象がたまに起こる原因は、セラピスト側の技術はほぼ関係なく、クライアント側にこういった現象が起こる条件がたまたま揃っていただけなのです。だから、このような現象が起こるクライアントは、催眠でなくても、気功師や霊媒師が施術をしても同じことが起こります。 つまり、こういった現象が起きるには、れっきとした科学的根拠があるのです。 この現象がなぜ起こるのか?その理由を知っていて施術をするセラピストはクライアントをがっかりさせることはありません。しかし、自分の催眠の技術でクライアントが治ったのだと勘違いしてしまうセラピストは、当然の如く、ほかのクライアントにも直接暗示を使った同じアプローチを繰り返すことになります。 そして、効果のないクライアントに対し、「あなたは催眠が合わないようですね…」といって結果も出せていないのに、料金だけをとったりします。でも、これはまだましなほうで、「あなたの原因は根が深いから、何度か繰り返し催眠をやらないと効果が出ませんね…」などと言って、しばらく通わせたりするセラピストもいます。 こんなセラピストに当たると最悪ですよね… でも、このような催眠療法士(ヒプノセラピスト)は想像以上にたくさんいるのです。 ところで、「タバコが不味くて吸えない…」という暗示を与えて、禁煙を試みる催眠療法士がいます。でも、このような暗示は、通常はセラピールームを出て数分もすれば暗示が解けて元に戻っています。 私のところにも禁煙の相談がよく来ていましたが、催眠と禁煙は相性が悪いので、私はすべてお断りしていました。 それは、ネット上を見渡していただいてもわかると思います。催眠療法で禁煙が成功したという事例はほとんど見掛けません。 タバコをやめたいと思う人はたくさんいるのに、催眠で禁煙できたという人が少なすぎるとは思いませんか? 禁煙を成功させるために必要なものはたったひとつです。 それは、「もうタバコは吸わない」といった“自分自身での決断”です。でも、「催眠療法で禁煙しよう…」と思った時点で他力本願になり、肝心な“自分自身での決断”の部分が弱くなってしまい、禁煙を失敗に導くのです。だから催眠と禁煙は相性が悪いのです。 それでも、極々まれに、「催眠療法を受けて禁煙に成功した」という人がいるのですが、この人たちに共通していることがあるんです。 それは、お金に対して欲深いということです。 禁煙ができると思って催眠療法を受けに行き、そこで1万円払ったとします。カウンセリングルームから出て、タバコが吸いたくなっても、「ここでタバコを吸ってしまったら、1万円をドブに捨てたことになる」という思いが出てきて我慢します。 結局は自力で禁煙しているのです。 お金に欲深い人にとって、1万円を無駄なことに使ってしまったという事実を受け入れるのは耐えがたいことなのかも知れませんね… このように、催眠では、実際にできることとできないことが錯綜(さくそう)しているのです。 世の催眠療法士(ヒプノセラピスト)と名乗る者たちは、催眠は何ができて、何ができないのか、そして、何が危険で、どうすれば本当の催眠に導けるのか、正しい催眠誘導と、正しい催眠の使い方をしっかり勉強して欲しいと思います。 そうしないと、クライアントから時間とお金を奪い取るだけになってしまいます。 ●催眠はアイデンティティにもパーソナリティにも影響を与えない 催眠のことを知らない一般の人はもちろん、ヒプノセラピストと名乗り、プロとして活動している人たちも、「催眠は無意識(潜在意識)に直接アクセスできるから、潜在意識の書き換えや過去の体験の上書きができる」と思っていたりします。 でも、実際にはまったくの逆であって、通常の意識状態では潜在意識の書き換えができますが、催眠状態では潜在意識の書き換えはおろか、アイデンティティにもパーソナリティにも一切影響を与えることはできないのです。 たとえば、被験者を催眠状態にして、「あなたは赤い車を見ると怖くなります」と暗示を与えて催眠から覚醒させます。すると、被験者は赤い車を見ると怖くなりますが、催眠を解かなくても、数分もしくは数十分もすると元の自分に戻り、赤い車を見てもまったく怖くなくなっています。 でも、占い師や霊媒師に「あなたは1年以内に赤い車にはねられて死にます」と言われたら、赤い車を見るたびに怖くなり、1年間は赤い車におびえて生活をするようになります。 これは、催眠術のショーを見ていただいてもわかると思います。深く催眠にかかった人が、「あなたが海で泳いでいると、後ろからサメが襲ってきました!……さあ、逃げて!逃げて!!……」とやって恐怖を与えても、被験者にトラウマができて二度と海に行けなくなるということはありません。 これは、催眠特有の催眠乖離といった特殊な状態になっているため、催眠状態ではどんな暗示を与えても、その人を変えることはできないのです。 だから、性格改善を希望するクライアントに、「あなたが目を覚ますと社交的な人になっています…」などといった暗示を与えても、目が覚めた直後はそんな気分になっていますが、気分はすぐに元に戻り、普段も自分に戻ります。 性格の改善をしたいのであれば、催眠だけではなく、ほかのメソッドと組み合わせて適応しなければ、まったくと言ってよいほど意味がないのです。 ●トラウマの克服とインスタント療法 近年、トラウマを改善するためのメソッドが次から次へと考案されています。 でも、そのほとんどが過去の出来事のイメージ(サブモダリティー)を操作したり、クライアントの目の前で指を左右に動かすといったようなインスタント療法です。 はっきり言います。インスタント療法で過去の出来事の印象は変えられても、トラウマは絶対に改善されません。 インスタント療法で改善されるのは、ただの苦い思い出であって、トラウマではないのです。過去の苦い思い出とトラウマはまったく別のものです。 こういったインスタント療法は、使い方の用途を間違えなければ、手かせ足かせを外し、行動に踏み切ることができます。 たとえば、ある男子大学生がデパートでかわいい女性を見つけ、デートに誘ったとします。いわゆるナンパですね… しかし、見事にフラれてしまい、この男子大学生にとっては苦い思い出となってしまいました。 この出来事が元で、彼は女性に声をかけてナンパをしようとしても、過去の苦い思い出が邪魔をして、女性に声をかけることができません。 こんなときにインスタント療法を使います。 たとえば、手かせ足かせの原因となっている過去の出来事を鮮明にイメージして、対象を小さくしたり、遠くへ移動させたり、フラれたときの女性の声をノイズで消し去ったりと、過去の印象を変える作業を行います。 そして、手かせ足かせになった出来事の印象が和らいでいる間に、勇気を出して女性に声をかけ、現実世界での成功体験を積むことで潜在意識のビリーフ(思い込み)を変換させることができるのです。 しかし、トラウマはこんなふうにはいきません。 たとえば、ある朝、起きたときに、いつもと違って体調が優れない… でも、会社は休むわけにはいかないので、いつものように朝の通勤ラッシュで満員の電車に乗ります。すると、何やら呼吸が苦しくなってきて、心臓がドキドキ鼓動を打ち始める… そして、目がぐるぐるとまわり、心臓の鼓動は早鐘を打ったようになり、呼吸が止まりそうになってしまったとします。この人は、電車の中で死の恐怖にさらされたわけです。 すると、この人の潜在意識は、電車と死の恐怖を結び付けてしまい、電車に近づくだけでパニック発作を起こしたり、吐き気やめまいが襲ってくるようになります。 これがトラウマです。 潜在意識はその人を守るためならどんなことでもします。しかし、潜在意識は言葉をもっていないために、恐怖といった感情や、吐き気やめまいといった症状を使って、その人を危険に近づけないように頑張るのです。 つまり、トラウマはその人を守るためにできるのです。 トラウマは一旦できてしまうと、潜在意識が「もう大丈夫だ……危険はない……」と納得するまでいつまでも続きます。 つまり、電車恐怖症のトラウマを克服するためには、潜在意識に「電車に乗っても死んだりしない……」と納得させる地道な作業が必要なのです。 クライアントの心の状態を観察しながら、系統的なアプローチを繰り返し、「もう大丈夫だ……電車に乗っても死んだりしない……」と、潜在意識を納得させることができてはじめてトラウマは改善されるのです。 最後にもう一度言います。 インスタント療法で過去の印象は変えられても、その人を守るためにできるトラウマは、インスタント療法などでは絶対に改善することができないのです。 ●退行催眠と除反応(じょはんのう) 催眠はトランス状態(変性意識状態)とはいうものの、映画を観て怖くなったり、小説を読んで、涙を流したりしているときと同じで、誘導者が作り出す言葉やイメージの世界で臨場感を楽しんでいるだけですから、危険なものではないんです。 そこで与えられる暗示も一時的なもので、時間と共になくなり、すぐに普段の自分に戻ります。催眠状態で与えられた暗示は、占い師や霊媒師の助言のように、アイデンティティやパーソナリティに影響を与えるものではないので、催眠にかかること自体は安全なのです。 また、催眠状態のときの身体は、瞑想状態に入っているときと同じでメリットはあってもデメリットはありません。 つまり、催眠はその状態になるだけで心身ともに健康な状態になる、いわば健康法ともいえるのです。 正しい技術を持った催眠療法士の誘導を受けると、催眠中は心身ともに力が抜けて気持ち良くなり、目が覚めたあとは脳の力みが取れた状態で目を覚ますので、催眠に入る前より視界がはっきりしたような、スッキリした気持ちで目を覚まします。 このように、メリットがたくさんある催眠ですが、催眠の中にも唯一危険なメソッドがあります。それがトラウマを持った人への年齢退行(退行催眠)です。 トラウマを持ったクライアントへの退行催眠を行うには、「除反応に対する調整技術」が不可欠です。 除反応を簡単に説明すると、年齢退行で年齢を逆行させているときに、過去のトラウマにモロに触れてしまい、恐怖を呼び起こされたクライアントが取り乱してしまう状態のことをいいます。 この除反応は、すべて出してしまわないとトラウマは克服できないのですが、一気に除反応を出し過ぎてしまうと、クライアントは数日間寝込んだり、しばらくうつ状態になったりします。 だから、年齢退行を行うときは、クライアントが衝撃を受けないように、セラピストには「除反応に対する調整技術」が必要不可欠なのです。 クライアントの心がきちんと成長していて、トラウマを受けたときの出来事を受け止めるだけの心力ができていれば問題はないのですが、多くのクライアントがトラウマを乗り越えるだけの心力はまだ持っていません。持っていないから催眠療法を受けに来るのです。 ちなみに、催眠を使った過去を遡るメソッドを催眠分析というのですが、代表的な催眠分析には、年齢退行のほかに、自分との対話法があります。自分との対話法を正式に学んだセラピストが行う催眠分析は、年齢退行に比べて安全ですし、効果は退行催眠を行ったときと同じ効果があります。 いちおう念を押しておきますが、安全なのは、正式なやり方を身につけているセラピストが行う「自分との対話法」です。 インナーチャイルドなどを癒すときも、主に年齢退行が使われますが、この場合も年齢退行より、自分との対話法のほうがはるかに安全です。 よく、退行催眠を行う際、ディソシエート(自分を客観的に観る)状態を主にしておけば、除反応を低減できると言われています。 たとえば、映画館にるイメージを浮かべ、スクリーンに過去の自分を映し出すといったやり方です。でも、これにも限界があります。どの催眠分析を用いても、多少の除反応は避けられません。 だからこそ、催眠分析を行うときは、「除反応に対する調整技術」が必要なのです。 ●もっとも危険な前世療法 退行催眠の延長線上に前世療法というものがあります。 退行催眠で年齢を遡り、そのまま「前世に戻ります」と暗示すれば、クライアントは前世に戻り、前世として会話をします。もっと言えば、退行催眠など行わず、催眠にかけて「3つ数えたらあなたの前世に戻ります」と言えば、クライアントは前世として振る舞い、前世として会話もします。そこで悩みの原因を尋ねると、何かしらの原因を話し始めます。 しかし、前世療法は退行催眠の中でももっとも危険なメソッドです。 前世が存在するか否かは私の知るとこではありませんが、少なくても催眠を行っているときに出てきた前世は想像の産物です。 催眠で与えられた暗示に対する反応は、主に記憶から出てくるものですが、記憶にないものは、催眠の性質上、想像から出てくるようになります。 たとえば、深い催眠状態にある被験者に、「あなたが目を覚ますと、憧れのアイドル、ももクロの百田夏葉子さんになっています……目が覚めたら音楽に合わせてダンスを披露します……」と言って催眠を解き、ももクロの曲を流すと百田夏葉子さんとして振る舞い、ダンスをします。 これは言うまでもなく、この被験者の記憶から出てきたものです。 次に、同じく深く催眠にかかっている被験者に「あなたは火星からやってきた宇宙人です……あなたは火星の言葉しか喋ることができません……」と暗示すると、おかしな声で聞いたことのない言葉を喋り始めます。このように、宇宙人など見たこともない人が、宇宙人のように振る舞うのは、やはり想像力が作り出すものなのです。 ちなみに、想像もできないものを暗示すると、被験者は反応することができませんし、催眠が安定していないときに、想像できないような暗示を与えると催眠から覚めてしまうこともあります。 これが催眠の性質です。 おわかりいただけますか…?「あなたは前世に戻ります」と暗示を与えられたら、催眠の性質上どうしても想像力がそれを作り出してしまうのです。 そもそも、前世療法というものは、催眠の研究者が提唱したものではなく、精神科医だった医師が、催眠を習っている時期に、自分のクライアントに施した実験的な行為からできたものです。 いわば、催眠の性質を知らない催眠の見習であった精神科医が勘違いして世界に広めたものなのです。 これも、危険が伴わないのであれば問題はないのですが、前世療法で出てきた除反応は、ときに年齢退行のそれとは比べものにならないほど危険なのです。 というのは、「あなたは前世に戻ります」と暗示した場合、そのときのクライアントの心の状態が反映された想像媒体が作り出されます。 たとえば、毎日、呼吸がしんどくて、普段の半分しか呼吸ができていない状態が毎日つづいているクライアントがいたとします。 病院をいくつか周り、呼吸器官には異常がないと診断されたクライアントは、「前世療法で呼吸が楽になった」というネットの書き込みを目にして某ヒプノセラピールームとやらを訪れます。 そこで前世療法を受けると、「自分は戦争中に捕虜の首を切り落とす仕事をしていた」などといった前世が出てきたりするのです。 これはそのときの心の状態が反映された想像から成るもので、心がネガティブな状態になっているときには例外なくネガティブな前世が出てきます。クライアントが本当の催眠に入っている場合、前世というお題を元に、潜在意識が勝手に創作してしまうのです。睡眠時に見る夢と同じで本人の自由にはならないのです。 すると、クライアントは取り乱し、施術が終わったあともずっと、「自分の前世は戦争中に捕虜の首を切り落とす仕事をしていた」という呪いを背負っていくことになります。 このような前世療法の危険性に対し、私は30年以上も警鐘を鳴らしてきました。 でも、前世療法を広めた団体はフランチャイズビジネスとしてどんどん手を広げ、いまや世界でもっとも大きな団体になっています。 この団体が教えている催眠誘導は、本当の催眠誘導とは違い、台本を覚えて朗読するだけの瞑想誘導です。この中に催眠をかけるために必要なプロセスは含まれていません。 催眠にかけるための手順が含まれていないのなら、催眠にかからないのかというと、そうではなく、こんな雰囲気だけの誘導でも、思い込みの激しいクライアントは催眠という雰囲気に飲まれてかかってしまうことがあります。 だから私はずっと危険を訴えてきたのです。 この団体は除反応に対し、「もし、あなたがトラウマに触れて辛くなったら、いつでも自分から抜け出して安全なところに回避できます」とか「あなたはいつでも雲の上に逃げることができます」などと暗示しておけば安全だと教えています。 でも、こんなもので除反応から回避できるのなら誰も心配などしませんよ… 前世療法を行うヒプノセラピストたちは、「先進国の大きな団体から習ったメソッドなのだから間違いない」と思っているようですが、実際には間違いだらけで、それがフランチャイズビジネスであることに早く気づくべきです。 先ほども言いましたが、催眠に導入する方法も、セリフを覚えて朗読するだけのもので、技術を身につける必要のない、フランチャイズビジネスとして考えられたものです。 この誘導を催眠だと思っている人たちは、一通りセリフを言い終わったあと、クライアントに感想を聞いて、「リラックスできて気持ち良かったです」と言われたら、それが催眠にかかったものとして実績の数に入れます。でも、それは瞑想誘導であって、ただのリラクゼーションです。催眠ではありません。 つまり、前世療法を主とする団体が教えている催眠は、それらしいセリフでクライアントをリラックスさせたあと、物語(スクリプト)によって連想ゲームをやらせているだけなのです。 そこで出てきた前世(想像)が、耐えがたい悍ましいものだったとするなら、それは強烈な暗示となってクライアントを苦しめます。さらに、それは前世という名目でクライアントの中から出てきた操作不能なものなので、セラピストが暗示で上書きすることもできません。 そんな中、何よりも怖いのは、前世療法を行うヒプノセラピストたちが、クライアントに強い除反応が出ているのに気づいていないことがあるという事実です。 あるヒプノセラピストは、クライアントが1ヶ月もうつ状態になり、寝込んでいるといった強い除反応が出ているにも関わらず、「あのクライアント、予約をドタキャンしてからずっと連絡が取れないんだよ!」などと不満を漏らしていたりするのです。 催眠は正しく使えばどんなメソッドよりも安全で力を持っています。でも、使い方を間違えると、霊媒師や占い師の否定的な助言によって苦しみ、逃れられない状態と同じものを作り出してしまうこともあるのです。 正しい催眠のメソッドは、少なくても、前世療法を主とする団体が教えているような催眠の使い方は決してしないことを理解していただけたら幸いです。 |
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